広島県公立高校入試制度が改編されるにあたり、県教委が改革の柱としたのが「自己を認識し、自分の人生を選択し、自分の考えを表現する力」の3つからなる「15歳の生徒に身につけておいてもらいたい力」でした。つまり受験生自身が自分はどんな人間でどんな考えを持っているかを表現できることを重視しており、それを入試制度に反映させたものが「自己表現」です。以前の公立高校入試では中学校側が作成する調査書に「特別活動の記録」の項目があり、クラブ活動や生徒会活動、さらにはスポーツ・文化・ボランティア活動などを評価していました。しかし新制度では調査書の記載は必要最小限にとどめ、受験生一人ひとりが自己アピールすることになります。これは調査書の内容を簡略化することで中学校の負担を軽減するとともに、調査点(内申点)の比重を軽くしたこととあわせて内申書に過度に縛られない仕組み作りを目指す県教委の意向が背景にあるものと思われます。実際の自己表現の実施に関しては下の図等でまとめた通り一般選抜の第1日目に自己表現カードを記入し、第2日目にそれをもとに個人面談方式で自己アピールを行うとされています。その際に必要な場合は写真や賞状、メダル、作品などの持ち込みも許されますが、禁止されているものもあるので注意が必要です。またタブレットなどを使って30秒以内の動画を流すことも可能です。ただしそれらはいずれも自己表現の「手段」に過ぎません。自分が打ち込んできたものや将来の夢、熱中しているものなどを通して、自分はどんな人間か、どうやって取り組んできたのか、どんな困難に直面しどう乗り越えてきたのか。そういったことを自分の言葉や方法で伝えることが大切です。
公立高校入試改革に向けての動きが公表された数年前から「自己表現」に関しては県教委の熱意が最も高い部分だなという気がしていました。選抜Ⅰの廃止や検査点重視の比重変更、特色枠の設定など「受験戦術」として見た時にはより重要と思われる改編事項も多いのですが、県教委のこれまでの動きやHP等で公開された情報は他の内容に比べて「自己表現」に関するものが非常に多い印象を受けます。これまでにない新たな取り組みだからという理由ももちろんあるでしょうが、今回の改革で最もやりたかったことはこれなんだろうな、という気もするのです。
学習塾の教師という立場から、つまり先ほどの「受験戦術」を受け持つ立場からこの自己表現を見た時、採点基準・方法にある気付きを感じます。3つの項目について3点から5点の幅で採点するため、1人の検査官の持ち点は最大で15点、最低で9点です。つまり自己表現で大きな点差はつきにくく、合否のカギにはなりにくいということ。自己アピールの特異な能弁な生徒、器用な生徒、語りやすいもの(クラブ活動や習い事、特別活動などの豊富な経験)を持っている生徒を除けば、当日の「自己表現」に不安を持つ生徒も多いことでしょう。しかし前述の通り自己表現がうまくいかなかったから不合格になった、というケースは少なくなるのではないかと見ます。受験生の皆さんには、必要以上に自己表現を恐れることなく、ひるむこともなく、また必要以上に自分を飾ることもなく、自然体で当日に挑んでほしいと思います。
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