広島県公立高校入試制度が2023年度入試から大幅に改編される背景には、公表されているものもあればそうでないものも含めて、いくつかの理由が考えられます。
◆内申点に過度に縛られない中学校生活を送ることができるようにする
◆調査書を簡素化し、教職員の負担を軽減する
◆入試期間を短縮し、中学校の授業時間や行事に関する時間を確保する
これらの改編理由はメディアの報道等でも伝えられ、また県教委からも説明されたものです。ただしこれらどれも生徒を「送り出す」側の中学校に関するもので、生徒を「受け入れる」側の高校に関する内容ではありません。公立高校入試制度の変革は、生徒や中学校に変革を求めるものであると同時に、高校にも変わることを要求するものです。
そうだとすれば、高校側に求められる変化とは何か。それは「特色や教育方針の明確化」だと思います。新たな入試制度を導入することで、各高校ごとの特色を明確化し、生徒が自己の実現に向けて主体的に受験校を選択する-このことが入試制度改編の大きな理由の一つだと考えるからです。
合格への戦術面では最重要?「特色枠」
新たな入試制度の内容が明らかになる以前から、ある意味最も注目していたのが「特色枠」の存在でした。合否の決定について「入試当日の試験の得点:内申点:自己表現=6:2:2」で判断する「一般枠」をベースとしつつも、定員の50%以内で高校が独自に配点を設定したり、独自の試験を課したりすることができる枠のことを特色枠と呼びます。また実際の入試では受験生全員をまず特色枠で合否を決定し、そこで合格できなかった生徒をさらに一般枠で判断するという仕組みが採用されます。
各高校がこの特色枠をどう使ってくるか、この点に非常に関心がありました。ここに学校ごとの特色や教育方針だけでなく「受験生へのメッセージ」が強く反映されると考えていたからです。また特色枠の内容を自分の学校成績や得意(不得意)教科などと照らし合わせて今後の目標設定や学習計画を立てていく必要があるため、合格への戦術面でも非常に重要なポイントとなっていくものです。
そして先月、県教委から発表された特色枠の詳細がこちらです。
高校ごとに見ていくと非常に長く煩雑になるので避けますが、大まかに分類してみました。
A「特色枠」で内申点を重視している高校
広島観音高校・沼田高校・高陽高校・可部高校・安西高校など
検査点重視の一般枠とは反対に、特色枠では内申点を重視する設定をした高校です。「一般枠とのバランスを取った」「当日の検査点重視では受験生間の差がつきにくく合否の決定が難しい」などの理由が考えられますが、ここから「日々の中学校生活やふだんの学習をこつこつ進められる生徒に来てほしい」というメッセージが見えてきます。
B「特色枠」で当日の検査点と内申点のバランスを重視している高校
国泰寺高校・広島井口高校・祇園北高校・広島商業高校など
検査点:内申点:自己表現=400:400:200など、従来の「検査点:内申点=ほぼ1:1」に近づけている高校です。細かくカウントするのは難しいのですが、このグループにあてはまる高校が数としては最も多いようです。
C「特色枠」の割合を低く抑えている高校
基町高校(普通)・舟入高校(普通)・広島皆実高校・海田高校・安芸南高校など
特色枠は定員の50%以内と規定されているのですが、これらの高校は20~30%となっています。特色枠を低めに設定することもまた特色なわけで、ここから「入試で高得点を取れるだけの実力をしっかりつけてきてほしい」というメッセージが浮かび上がってきます。また白石学習院イオとしては教室の近隣にある広島皆実高校・海田高校、安芸南高校がこのグループに該当するだけに注目したいところです。
新たな入試制度の導入に合わせて各高校が作成した「入学者選抜実施内容シート」が公表されました。その中で特色枠の内容が改めて示されるとともに、各高校の教育方針や求める生徒像なども記載されました。ここも各高校の個性や特徴、特色がはっきり見えるものになってほしいと個人的に思っていたのですが、今回発表されたものを読んでみると、やや抽象的な表現が多く、受験校選択の決め手にはなりにくいように感じます。
公立高校であることから制約も多い、普通科の場合は他校との違いを伝えにくいなどといった要素もあるとは思うのですが、中学3年生が主体的に受験校を選択していくためには各高校がる意味「尖ったもの」になっていく必要性を強く感じます。特色枠の設定や実施内容シートは今回初めてのもの。今後年を経るに従ってその内容がより磨かれたものになってほしいと思います。
2022年春、呉昭和高校(呉市)と安芸高校(広島市)の入学者募集が停止されました。2024年には両校とも廃校になることが決まっています。また現在、県教委は定員割れが続く小規模校3校(湯来南・上下・東城)の存廃を検討しています。一方で行政や町ぐるみのバックアップを受けながら女子野球部を創設した佐伯高校(廿日市市)や「商業高校アップデート」を掲げて主体的な学びを実践している商業高校など、受験者数が増加したケースも存在します。
少子化の流れを受けて、今後も公立学校の統廃合は続くものと思われます。また子供の数が減少することで入試は「ふるいにかけるための試験」ではなく「生徒と学校とのマッチング
の機会」という性質を強めることになると予想します。今回の入試改革にあたり、県教委は15歳で身につけておきたい力を「自己を認識し、自分の人生を選択し、自己を表現する力」であると規定しました。その生徒を受け入れる高校側も学校の特色や魅力をより明確化し、伝えていってほしい-高校受験をサポートする立場にいる者のひとりとして、そう強く願うのです。
Comments